今年9/13(土)~22(月)に長野市芸術館 展示サロンにて開催予定の「長野市芸術館アート・グループ展2025」。
5回目の開催となる今回は「探求」をテーマに、募集資格を拡大し長野県に所縁ある作家の作品を募集しました。
9件の応募の中から厳正な審査の結果、下記の5名の出展が決定しましたのでお知らせいたします。
審査:一般財団法人長野市文化芸術振興財団
長野県立美術館 学芸課長 霜田英子
OZ-尾頭-山口佳祐(画家 絵師 浮世絵師)
若尾 俊
祈りより出づ -火防と潮騒-
■若尾 俊 わかお しゅん
1992年東京都生まれ。2017年薬剤師免許取得。2025年京都芸術大学大学院修士課程修了。現在は医療機器の研究開発に従事しながら、インスタレーション制作を行うアーティストとして活動している。主な活動範囲は長野県の安曇野市である。これまで4回、安曇野市において科学と身体をテーマにアートプロジェクトを実施してきた。2024年度の京都芸術大学の修了展では優秀賞を受賞した。
エントリー作品:祈りより出づ -火防と潮騒- [サウンドインスタレーション]
本作品は、蝋と塩でできたレコードと、秋葉街道の道中の写真や古地図が載ったレコードジャケット、街道でレコードを制作している映像で構成されている。
長野県は善光寺を始めとし、様々な信仰と関わりの深い土地である。その中でも秋葉神社、三峰神社を始めとする火防信仰は、生活に近しく恩恵と災いをもたらす火という自然現象を対象としており、この火防信仰によって人々は火との関係性を構築してきた。
この火防信仰に関わる街道に、秋葉街道がある。秋葉街道は諏訪湖から静岡県の秋葉神社本宮、相良をつなぐ街道であり、古くから使われていた交易路でもある。この秋葉街道を通じて、長野の人々は塩を始めとする太平洋側の海産物を取り入れ、また秋葉神社本宮への参詣も行っていた。即ちこの秋葉街道は、火に対する祈りと海の記憶が交絡していた道であったと考えられる。この土地における火への祈りは、海と何らかの繋がりがあったのではないだろうか。また、この祈りや記憶は、人々の語りを通して音として長野に届けられたと考えられる。
本作品では、火に対する祈りと海の記憶、それらにまつわる音を象るものとして、長野県で作られる蝋と太平洋の塩を合わせ、街道でレコード盤を作る。このレコード盤に太平洋の潮騒や秋葉街道の道中の音を刻み込み、再生することで、音としての火への祈り、海の記憶を再びこの地に持ち込む。また、傍らには秋葉街道道中の風景や古地図の写真を載せたレコードジャケットを配置する。これらによって、この土地の火への祈りの要素の提示、再構築を行う。本作品における「探究」とは、長野県の人々が長年培ってきた火と人間の関係性構築とその歴史に対する姿勢そのものであり、それを聴覚メディアによって現代的に再解釈を行う作者自身の姿勢でもある。
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樽井美波
そらに さよなら おほしさま
■樽井美波 たるいみなみ
1986年長野市出身。長野市在住。
2014年筑波大学大学院人間総合科学研究科 博士後期課程美術専攻彫塑領域 修了。
おもに塑造による具象彫刻の制作をおこなう。
2008年~グループ展多数参加。
2011年日展初入選、2015年白日会展初入選。現在 日展会友、白日会会員。
エントリー作品:そらに さよなら おほしさま [乾漆]
本作品は、小学生の頃に裁縫で作ったくまのぬいぐるみがモチーフです。数十年ずっと、実家の同じ場所に置いてあり、かたちも色もだいぶ変わってきましたが、とくに気にとめられることもじゃまにされることもなく、そのような佇まいがあらわせたらと思い制作しました。ぬいぐるみを目にするとき、あたたかさやかわいらしさを感じると同時に、無造作に置かれている際の重力に逆らわない姿からは、寂しさや哀しさを感じます。彫刻と同じ立体造形物ではあるものの、その造形感や概念は対極にあるもののように思い、そうしたものを彫刻としてあらわすことにおもしろさを感じました。また、乾漆がもつ、奥行きのある色調や、堅すぎず柔らかすぎない感触、温度感などが、あらわしたい存在感のイメージに合致すると考えています。
漆という素材を思うように扱うことはまだ難しく、想像しなかった色や質感の表出にふりまわされることも楽しみながら、これからも私なりの探求を続けたいと思っています。
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若松はるか
萌え出ずる生命、有限の中の探究
■若松はるか わかまつはるか
私はアクリル絵の具とオイルパステルを使用して絵画を描いてきました。
現在は、自身の心身の崩壊から再生へのプロセスに着目して制作を行っています。
作品上では、人体や草花といった具象的なモチーフと、それらが一つの画面上で絡み合う抽象的なイメージが混在しています。キャンバスに描くという行為を通じて、私は己の肉体と精神の繋がりを学び、その上で身体とそれが存在している世界との関係性を作品に落とし込むことを目指しています。
エントリー作品:萌え出ずる生命、有限の中の探究 [アクリル]
作品テーマである「探究」という単語を目にした瞬間、爆発的な生命力を有する生物のイメージが湧き上がってきました。新しい命を得てこの世界に生まれ落ちた生物、つまりこの世に生きとし生ける者全ては、己の本分を知り己の生を全うするために探究し続ける運命にあると考えています。
これを踏まえた上で、鮮やかな色彩と力強い輪郭を持った生物が、限られた命の時間の中で精一杯己の使命を探究する姿を描きました。
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中條 聡
ひばりが鳴いた
■中條 聡 なかじょう さとし
長野県松本市出身・在住。東洋絵画の素材や思考に基づいた独自の技法による絵画作品、リサーチに基づいて場所の歴史や物語の情景を鑑賞者に追体験させるようなインスタレーション作品、張り子や陶の立体作品を制作しています。2022年よりアートプロジェクト「木曽ペインティングス」に参加し、作家としてだけでなく木曽や松本地域でのアート活動の企画にも携わっています。
エントリー作品:ひばりが鳴いた [絵画]
この作品では〈時間と共に朽ちる〉という絵画の性質と、その変化を味わう文化の可能性を探究した。
音楽、文学などの芸術作品はその本質を物質に依存しないために、演奏、複製されることで年月を経ても鮮明に生き続ける。それに対して物質を伴いカタチを持つ絵画表現は年月と共に作品そのものである素材が劣化、損傷していく「朽ちていく表現」である。
現代に伝わる古い書画作品には、何百年の時間の中で絵の具の剥落や虫害・浸水などによる損傷を受け、その度に修復されてきたものがある。折れ目がついたり継ぎ接ぎになったそれらの画面からは作品が経てきた時間の隔たりや来歴を感じることができる。そういった「古び」の感覚は古画や古物を味わう文化にもなっている。
この作品では、絵画を意図的に劣化・損傷させ、さらに補紙や裏打ちを施して修復するという工程を繰り返すことで、何百年の年月を経た古画のように時間と来歴を感じさせる表現を試みた。経年による汚れや虫害に見立てた損傷と修復の痕跡には、言わば架空の時間と来歴が刻まれている。
現代に描かれたイメージに、架空の時間と来歴による隔たりを重ねたら、私たちはその時間的な距離感をどんなふうに受け止めることができるだろうか。存在しないはずの過去の風景として、あるいは遥か遠い未来の視点から現代を振り返る風景として受けとることができるかもしれない。この感覚は時間と共に朽ちる表現物ならではの錯覚であり、本作品ではこの錯覚がもたらす可能性を探究した。
描かれたモチーフは古くから禅画の人物表現に見られる素朴で淡い線描(罔両画様式)に寄せつつ、特定の時代や出来事を感じさせない日常的なイメージにすることで、過去・現代・未来いずれの風景にも見えるよう意図した。
それらの多面的な時間認識を曖昧に繋げる普遍的な情景として、時代に左右されず季節を知らせている雲雀の声を題名に響かせた。
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イチカワトモヒロ (大月智大)
体に血は流れている
■イチカワトモヒロ (大月智大 おおつきともひろ)
東京都清瀬市出身。中学、高校にて美術の楽しさを知る。
卒業後、海外にて旅をする。2015年に初の個展を開く。2016年武蔵野美術学園入学。卒業後は作家として活動する。
エントリー作品:体に血は流れている [油彩]
僕は主に動物をメインに描いています。動物から人の中にあるものを感じてもらえたらと思って絵を描いています。
孤独、生きる強さ、社会に対するいろんな出来事を込めています。
この作品は下地が赤なのでこのタイトルをつけました。人も動物も体の中に血は流れている。今の時代に立ち向かって行くぞと描きました。
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また、「池袋モンパルナス回遊美術館・池袋アートギャザリング(IAG)公募展」過去入賞者の中から選出した招聘作家も決定しました。
「長野市芸術館アート・グループ展2025」では、下記1名の作品もあわせて展示します。
選出:池袋モンパルナス回遊美術館実行委員会
温井大介
IAG AWARDS 2024大賞受賞作品:still life,figure,landscape [油彩]
■温井大介 ぬくいだいすけ
ペインター
1981年 日本生まれ
2006年 東北芸術工科大学 卒業
2024年 京都芸術大学大学院 通信教育課程 修了
主な技法 油彩、ミクストメディア
受賞歴
2004 デッサン・ドローイングコンテスト特別審査員賞(東北芸術大学洋画コース)
2006 卒業選抜賞(東北芸術大学洋画コース)
2011 審査員長賞(富岡製糸場 赤レンガ写生大会)
2024 池袋モンパルナス回遊美術館 IAG大賞(IAG AWARDS2024)
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以上6名の作家の作品が集まるアート・グループ展、9月の開催をぜひお楽しみに!
■「長野市芸術館アート・グループ展 2025」
会期:9月13日(土)~9月22日(月)※9月16日(火)のみ休館
長野市芸術館展示サロン(1F)
入場無料