Performances & Events水曜ひるまのクラシック・リサイタルシリーズvol.32　横坂 源 チェロ・リサイタル

公演レポート

2022年度の「水クラ」前半最後の７月。チェロの横坂源さんをお迎えしました。
信州に来るのは久しぶりということ。共演は沼沢淑音さん（ピアノ）です。

前半は、コダーイ、ストラヴィンスキー、シューマン。
コダーイの《ソナチネ》は、どこか日本画のような響きも持つ作品。異世界へいざなうような、不思議な引力を感じます。

続いて華やかな序曲に始まり色とりどりの世界を見せるストラヴィンスキーの《イタリア組曲》、ドイツロマン派の抒情的な響きが美しいシューマンの《３つのロマンス》をお聴きいただきました。

実はこの前半のプログラムこそが、水クラの各回のお題「長野の自然をイメージさせるプログラム」として選んだ曲だということ。
美しい自然、澄んだ空に星が輝く夜、暗く静かなように見えて、たくさんの生き物や物語が息づく豊かな森。それらの風景を思い起こさせる横坂さんのチェロの響き、その語り口に魅了されます。

トークコーナーでは、楽器との出会いやチェロという楽器についてなど伺いました。
雪国新潟で育ち、中学３年で東京の音楽高校への進学を決心した横坂少年。その時に感じた友達と離れる寂しさや、そしてこれから音楽で食べていくのだと気持ちを新たにしたというエピソードが語られました。

文字にすれば何でもないエピソードですが、少年時代の思いを語る言葉のはしばしに横坂さんの繊細で瑞々しい感性と知性、誠実さが感じられます。
ピアノの沼沢さんとは、その進学先の高校（桐朋学園女子高等学校音楽科（共学））の同級生。学生時代は共演することもなく、一緒に演奏するようになったのは留学後ということ。

「チェロは前を向いて演奏するので、後ろにいるピアニストの顔を見てコンタクトすることができない。後ろから響いてくる音を信頼して一緒に音楽を創っていくことになる。山に登るときに、手をつなぐことはなくても一緒に同じ頂上を目指して歩いていくような、そんな関係」と横坂さん。
それまでの前半の演奏でも、２人の音のアンサンブルが生む、大きな音の波が印象的でした。「息が合う」という以上に強い、お互いの音楽への信頼が、独奏楽器とピアノとのデュオの醍醐味なのだなと改めて感じます。

後半は、優しく愛らしいチャイコフスキー《メロディ》、短い曲の中にハッとさせる響きがあるウェーベルンの《３つの小品》。
そしてショスタコーヴィチ《チェロ・ソナタ》は、まるで不思議の国の祝祭のような高揚感に溢れています。チェロとピアノの音がまるで聴き手を誘惑するかのようにうねって、その渦に身を任せるのは、この上ない快感です。

本編の終わりは、シベリウス《２つの小品Op.77より「賛歌」》。ショスタコーヴィチの興奮をなだめるように、そして物語のエピローグのように、丁寧に奏でられました。
おおらかに、優しく、時にユーモアも涙も交え、またある時は堂々と壮大に、まるで物語や叙事詩のように「語られた」音楽。繊細で豊かな表現が印象に残るコンサートでした。

＜本日のアンコール＞
サン＝サーンス：白鳥
クライスラー：愛の悲しみ

＜アンケートより＞
♪初めて聴く曲ばかりでしたが、チェロとピアノの共演が素晴らしく、心が豊かに感動しました。アンコールの聴きなれた曲もありがとうございました。
♪特にショスタコーヴィチ、圧巻の演奏でした。横坂さんと沼沢さんとの2人の信頼感が伝わってくるような素敵な演奏会でした。
♪ショスタコーヴィチは、素晴らしかった、というより凄かった。近年の名演と言えるのではないか。
♪チェロの包み込むようなあたたかい音色が大好きです。割と近現代寄りの曲が多かったのですが、無調の曲でさえ（もちろんロマン派はいうに及ばず）、ホールの空気のみならず、ホール全体が息づき、うなり、歌っているかのようでした。沼沢さんとのコンビネーションも素晴らしかった！
♪映画を見ているようでした。ドラマティックな演奏でした。
♪今まで聴いたことのない曲ばかりでしたが、盛りだくさんの作曲家の曲を聴けて良かったです。シューマンの《ロマンス》はうっとりして聴き入りました。ピアノの音もとても良かったです。
♪チェロの音色を目の前で聴くことはなかったので、とても楽しみにしていました。1音目に波動を感じ、音の伝わりを、そして人の声に近いという音と、とても哲学的な音楽を楽しめました。2人の人柄を、そして長い友情の時間を感じる、とても素敵な時間でした。
♪芸術家でありチェロ職人といった感じだった。とにかく素晴らしかった。今度は大きなホールで聴きたい。ピアノもよかったです。
♪繊細な音色を持つチェリストさんですね！！ロマン派、チャイコフスキーなどが人柄に合っているようでした。今日のプログラムは現代曲に重きを置いていて、私はウェーベルン、ショスタコ大好きなので、すごく良かったです。
♪難曲ショスタコ―ヴィチ、特にまた聴きたくなりました。素晴らしい演奏ありがとうございました。ピアノもステキでした。
♪素晴らしいチェロとピアノの音色に浸ることが出来ました。ありがとうございます！！トークも楽しかったです。横坂さんがチェロと一体化しているようでした。沼沢さんとの同級生コンビ、すてきですね！！アンコールたくさん弾いてくださり、感激しました！！また是非2人で長野においでください。
♪豊かな音色が心地よかったです。こんなに素晴らしいチェロの音色は初めてです。前半はクールな魅力でしたが、トークを聴いたらすっかり親近感がわきました。後半は迫力があって息ピッタリで、新しい世界へ導かれたようでした。どの曲も映画を観ているようでした。生きていてよかったです。
♪素晴らしい演奏ありがとうございました。お話も楽しく、チェロという楽器がまるで人格を持っているように感じられ、語り部のように聴かせてくれました。
♪ショスタコーヴィチの《チェロ・ソナタ》は、ジャズのようで不思議な曲で楽しかった。アンコールの2曲も最高。
♪いろいろな作曲家の作品を聴くことが出来て良かったです。《イタリア組曲》楽しかったです。いろいろな弾き方を見せていただけたのもよかったです。トークタイムのお二人、とてもステキでした。優しさと信頼とリスペクトに溢れていて。重厚感のあるどっしりとした感じで広がりのあるチェロの音色、堪能できました。ありがとうございました。