ニュース一覧

【出張・のらくら音楽室②】聴きました!上條頌 Live in Nagano

のらくら音楽室

皆さま、こんにちは。
やって参りました「出張・のらくら音楽室」。
第2弾となる今回は前回に続き、長野市芸術館もう一人のレジデント・プロデューサーである上條頌さんについて、8月9日(日)に当館で行われたライブのレビューを中心にお届けします。

まず本公演の実施にあたっては、当館としても慎重な判断のもと、非常に厳重な対策を講じていました。
客席の最大数を通常の約半数にすることはもちろん、舞台前面およびドラムセットの前にも大きなアクリル板を設置。

また出演者も含め、皆様が楽しみにされていたであろう物販やサイン会等、接触の危険があるイベントは徹底して避けたうえでの開催。
ご来場のお客様には入場前の検温やご連絡先を記入していただく等、多大なるご協力をいただきました。
誠にありがとうございました。

芸術館に帰ってきた
「上條サウンド」

さて今回《I’m Ready》から《Let’s Go Together》への流れで、久々に生で聴ける「上條サウンド」は冒頭からフルスロットル。
この時を待ちわびたとばかりのアンサンブルが展開されます。

彼の楽曲の特徴は、筆者が思うに「スムース・ジャズ」のテイストがふんだんに感じられる点。
フュージョンと聴けばなるほどと頷く方もいらっしゃるでしょうが、その流れを汲みつつ、様々なジャンルの影響を受けながら発展した、ジャズの派生形として知られる音楽です。

耳に心地よい作風は健在ながら、サウンドとしては自らを全面に押し出すスタイルというよりも、トータルバランスを重視した音づくりにこだわっているようです。
これはきっと、普段からサポートギタリストとして活動している彼の背景から推察するに、常に客観的な耳をもってバンドサウンドを構築しているのではないでしょうか。
彼自身は楽器本来の音を活かした、かなりクリーントーンに近い涼しげな音色。
ピッキングの細かいニュアンスがダイレクトに伝わってくる、確かな実力と自信に裏打ちされたプレイでした。

また、今回も愛機であるセミ・アコースティックギターの艶めく黒が、白い衣装に何とも映えます。
ちなみにこのギター、通称セミアコは、トップにあけられたf字孔が目を引くルックスですが、ボディにも空洞部をもち、それが共鳴胴として機能することで生音もしっかりと鳴ってくれることでも有名。
ジャズやブルースのプレイヤーから絶大な支持を得るギターとあって、上條氏の生み出す音楽にも最適な楽器ということでしょう。

さまざまな想いを、
歌に乗せて

3曲目《Parallel Reality》からは、ヴォーカルに和田昌哉さんが参加。
編成に歌が入るだけで、一気に楽曲がR&Bの空気感をもちます。
声色はしなやかでさらさらとバンドに溶け込みながらも、ソウルフルなフェイクが随所に散りばめられ、聴衆を魅了。

特に《Hand In Hand》の一節、
『手と手 ふれなくても 目と目あわなくても
 二人支え合って ここにいる』
その日彼が伝えたかったすべてが集約されていたのではないでしょうか。
コロナ禍の現状への憤り、今回の開催を直前まで協議し苦悩していたこと、そんなネガティブな感情と、それらを乗り越えようとする前向きさと、言葉以上にさまざまな思いが込められていたように感じました。

フォルテもピアノも、
すべてが「聴きどころ」

8曲目《All I Do》からは、ゲスト・ヴォーカルである高橋あず美さんが登場。
言わずと知れた松本市乗鞍高原出身の、長野県が誇るシンガーです。
当館公演における上條氏との共演は、2019年度初めの市役所ロビー・コンサート以来ですが…。
今回、彼女の新たな魅力が引き出されていたように感じたのは、おそらく筆者だけではないでしょう。

高橋氏の持ち味といえば、やはりパワフルな歌声のイメージがありますが、本公演ではむしろ声量を絞ってささやくように歌い上げるシーンが印象的でした。
一曲の中で使用するダイナミックレンジが広いだけに、ふいに現れる力強く語りかける瞬間瞬間には、一挙に心をぐっと掴まれます。
自由に歌っているようで、その実繊細にコントロールされたヴォーカルワークに、改めて高橋氏の技術がいかに高度かを見ました。

また「音楽のある場所」で
会えることを信じて

プログラムの最後はご存知《The Music Place》——上條氏が長野市芸術館のために書き下ろした楽曲です。
彼の楽曲はインストゥルメンタル(ヴォーカルの入らないもの)も多いですが、一貫して「メロ/サビ」の構造を取っています。
ポップやロックにも通ずるシンプルさ、親しみやすさをもちながら、まるでギターが歌いながらこちらへ語りかけてくるような、そんな感覚にさせられます。

この曲が長野市芸術館のレパートリーとして、ますます演奏の機会が増えていくよう、そして一日も早くこうした日常が戻ってくるよう、願ってやみません。

アンコールはディズニー映画「アラジン」の主題歌である《A Whole New World》をデュエットで。
ソーシャルディスタンスを取った分を補って余りある、密度の濃い2時間となりました。

当日のセットリスト
①I’m Ready
②Let’s Go Together
③Parallel Reality
④Slow Jam
⑤My Sweet Little Boy
⑥Where Is Love
⑦Hand in Hand
⑧All I Do
⑨Believe
⑩Memory
⑪故郷
⑫The Music Place
〈アンコール〉
⑬A Whole New World


Guitar: 上條頌
Keyboard: Penny-K、MANABOON
Bass: 滝元堅志
Drums: 坂東慧
Vocal: 和田昌哉
Guest Vocal: 高橋あず美

関連動画・記事はこちら

おうちで芸術館ムービー #2(The Music Placeの演奏は0:50~)

【これがThe Music Place!上條頌 Live in…

長野市芸術館さんの投稿 2020年8月9日日曜日

【出張・のらくら音楽室①】ここを聴きたい!加藤昌則《デュエット》

のらくら音楽室

皆さま、こんにちは。
やって参りました「出張・のらくら音楽室」の第1弾です。
これは当館が不定期に発行している『芸術館DOORs(ドアーズ)』内コーナーのウェブ版で、今回はコロナ禍の緊急プロジェクト『おうちで芸術館』で投稿された動画について、その魅力の数々をお伝えできればと考えております。

『おうちで芸術館』トップページはこちらから
『芸術館DOORs』はチケットセンター、芸術館事務室でも無料配布中!

トップバッターはいわずと知れた長野市芸術館レジデント・プロデューサー加藤昌則さんのピアノ作品《デュエット》。
もとはピアノ4手連弾のために書かれた曲とのこと。
ゆったりとした3/4拍子で、Expressif(=表情豊かに)と指定があります。

【1:07~】

コラールを思わせる音配置から始まる冒頭6小節が美しいのです。
左手のベースラインは上行音型が特徴で、最初に現れる変ホ長調のスケールを1小節遅れて内声が追い、カノン風に重なっていきます。
均整の取れた和音を基調としながらも、ときおり音階が上行せず保持されることで非和声音*1が生まれ、部分的に洒落た響きが生まれる仕掛け。

【1:35~】

右手には第1主題となる旋律と、ベースラインの10度上*2に重なるハーモニーとが含まれますが、7小節目からはそれぞれオクターヴ下、オクターヴ上へ移高され、ソプラノと内声が反転します。
主題の反復部であると同時に、はじめは内声であった声部が高位に置かれることで、まるでもうひとつ主題が現れたかのようにも機能するという、非常に構造的に練られたセクション。
ちなみにここまで臨時記号は一切登場せず、すべて調性内の音で構成されていることも、本楽曲のもつどこか敬虔な空気感に一役買っているといえるでしょう。

【2:13~】

17小節目の直前にはじめて変ロ音が現れ、下属調*3へ転調するようなモーションを見せたところで、第2主題への突入が明確に示されます。
旋律と内声が波のようにかけ合いをする音型が特徴的ですが、フレーズの終結部で3連符がぽつりと独りごちます。
この後の畳み掛けるようなリズムを予期させるような、特徴的な終止ですね。

【2:40~】

左手の上行スケールが復活すると、拍を追うにつれ音数を増しながら、ついには和音の平行移動となってクライマックスに向けクレッシェンドし続けます。
ここでは本来禁則とされる、いわゆる「連続5度*4」を多分に含むため、いい意味で西洋音楽的ではない、なかなか劇的な響きがして趣深いですよ。

【3:10~】

全体の構成はいたってシンプルで、基本的にはここまでの流れが展開されながらもう一度繰り返されますが、徐々に冒頭の整然とした響きからは離れていき、複雑かつ重厚になっていくさまに最後まで惹きつけられます。
特に43小節目の後半、半拍ごとにコードが変化する部分はぜひお聴きいただきたいところ。
ベースラインの半音上行に対して内声が下行しながら偶成的につくられる和音がつど美しい!必聴です。

最後に、そんな加藤さんの公演情報をお知らせします。
「加藤昌則のぶっとび!クラシック3」全5回、当館リサイタルホールにて。
毎回異なる作曲家をテーマに、音楽史を楽しく!わかりやすく!お伝えする企画となっています。
本記事をお読みいただいた皆様であれば、必ずやお楽しみいただける内容になっておりますので、ぜひチケットの方もお求めくださいませ。

【各公演の詳細はこちら】

1時間目「メンデルスゾーン」 2020年9月30日(水)18:30開演(18:00開場)

2時間目「ベルリオーズ」 2020年10月21日(水)18:30開演(18:00開場)

3時間目「リスト」 2020年11月25日(水)18:30開演(18:00開場)

4時間目「フォーレ」 2020年12月23日(水)18:30開演(18:00開場)

5時間目「ロシア5人組」 2021年1月20日(水)18:30開演(18:00開場)

次回も引き続き『おうちで芸術館』の動画をご紹介していきたいと思います。
それでは、またお目にかかれますよう。

 脚注 

*1:本来は和音に含まれない音。3小節目頭は特に「下方掛留音」とよばれる。

*2:1オクターヴと2音上の音。冒頭はベースがミ♭、内声がソとなっている。

*3:主調である変ホ長調に対して、完全5度下にあたる変イ長調のこと。共通音が多いため転調しやすい調でもある。

*4:完全5度音程が連続すること。下のファ→ソ→ラ♭→シ♭→ドと並行して、上がド→レ→ミ♭→ファ→ソと動いている。

【加藤昌則さんの他の動画はこちら】

《もしも歌がなかったら》Piano ver./作詞:宮本益光、作曲:加藤昌則 (演奏は1:48~)
《即興 第5番》/作曲:加藤昌則(演奏は0:47~)
《荒野になびく花々から》/作曲:加藤昌則(演奏は4:26~)

ページの先頭へ